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こちらは岩手県大船渡市出身の小説家・野梨原花南の記憶・体験・創作による仮想旅行記です。
「被災地」ではない各地の顔を知って欲しく開設いたしました。
楽しんでいただければ幸いです。

2011年3月18日金曜日

第一回 一ノ関駅


東京駅から新幹線で二時間半。
南三陸沿岸の玄関口、一ノ関駅に着きます。

07:56~10:21JR新幹線はやて103号 
運賃:片道12,470円(乗車券7,140円 特別料金5,330円)
一ノ関で乗り換えて
10:43~13:0823JR大船渡線・盛行
のルートです。
参考までに合計運賃は片道13,840円(乗車券8,510円 特別料金5,330円)です。

けれどもまっすぐ着いて貰っては困るので、ちょこちょこ途中下車して貰います。

さて、もうすぐ一ノ関に着くところからはじめましょうか。

正直、ちょっと遠いです。
車内販売で買った福島名物ままどおるを食べながら
(ままどおるは玉子あんを皮で包んだほそながいお菓子でとてもおいしいです)
仙台でもよかったんじゃないの。あそこらへんが距離的に妥当なんじゃないの。
あなたはそう思って、大船渡線の路線図なんか広げます。
そしてきっとこう思うはず。

なんでこんな形なの。

大船渡線は、なべづる線と異名を取る路線の形をしています。
クネクネしております。
どんだけ利権争いあったの?
とか、
どんだけこの一本ですませようとしたの?
とか、
これかえって不便じゃないの?
とか、
思うと思いますが仕方ないのです。くねくねしちゃっているのですから。


あなたの今回の旅の目的は、陸中海岸国立公園とその周辺の観光です。
楽しんでください。
一人旅です。


季節は今回は春にしましょう。
夏にも来て下さい。秋も美しいです。けれど一番美しいのは冬です。

それはまた別の時にするとして今回は春にしましょう。

ゴールデンウィークで、新幹線はそれなりに混んでいます。
くりこま高原を過ぎたところで、やたらトンネルが多いなとあなたは思うでしょう。
とおくの山に見える藤色の花は、下がっていれば藤、上向きなら桐です。
ごお、とトンネルを抜けると古川駅です。
このあたりから水田が多く見えてきます。
雑木林を擁する山々は、若葉を吹きだして輝いています。うぐいす餅のようです。
山桜は群れないので、差し色のように一本ずつ桜色に翳っています。
信じられないほど急な斜面に鉄塔が立っていて、杉や松の重い緑が陽に影を持ちます。
幾枚かの水田では水が入れられ、田植えの作業が行われているかも知れません。
それらは青空と山々を映して、まるで天空が地面に落ちたようです。
あぜ道を子供がひとりでかけていきます。
関東では散ってしまった桜がここでは今が満開です。なぜか八重桜もほぼ同時に咲いています。
天から地から、光が満ちて、雲は白く流れていきます。

てれててててーんててれてててーん♪
間もなく、一ノ関駅。一ノ関駅。

続く英語のアナウンスを聞いて、あなたは路線図をしまいます。
ってるうちに列車は減速を初めてあなたは慌てます。
止まります。
あなたは
駅間狭いだろ!と慌てますが、他の皆さんは慌てていません。

扉が開いて、あなたは一ノ関駅のホームに降り立ちました。

そして言います。

「寒」。

他の皆さんは慣れている様子で足早に歩いて行きます。
新幹線はホイッスルの音と同時にまた出ていきます。
あなたは歩きだしてエスカレーターを降ります。

晴れてて四月末なのに、なにか空気がひんやりしています。
喉が冷えるような冷たさです。

乗り換えに少し時間があります。
コンコースには人は少なく、あなたは飾ってある大木の輪切りなど見ます。
寺に奉納されている大太鼓の素材ということです。
小さく手書きで色々書き込んであり、天保の飢饉の時には年輪の間が異常に狭いことに気がつくでしょう。
大変なんだなぁ。
ちょっとぞっとするかもしれません。
ところで寒いので、ベンチに荷物を置いて、一枚着込みましょう。
そして荷物を持って離れますが、改札を出て、ポスターに目がつきます。
「義経伝説~平泉」
路線図を見ると、駅は隣の隣です。
今回は大船渡線の旅ですから脱線ですが、せっかくエアトラベルなのでちょっとあなたをお連れしましょう。

毛越寺
「うおなにこの別世界! 小宇宙!」
中尊寺
「古い。ぼろい。ミイラ」
達谷の窟
「なんでこれこんなことに!」

中尊寺は、少し年をとってからきたほうがいいかもしれません。
けれど、みんながいいというものを若いうちに無理矢理見るのもいいものです。
毛越寺はアヤメもとても見事ですが庭園自体素晴らしいし、駅からも近いのでお勧めですよ。
達谷の窟は、あまり知られていませんが、見ても損はないと思いますし、
岩手の歴史を感じるいい史跡と思います。

さて、一ノ関駅です。
「ふぅ……ちょっとなんか疲れた……」
売店で山のきぶどうというドリンクを目にして買ってみます。
「すっぱ!」
お値段三百円でちょっとお高いです。
「でもうめぇ」
疲れが取れますよ。久慈市の名産です。県内には多く流通しています。
通路を歩いて行くと、階段があります。
降りると外です。ホームがあって、そこに緑色の車両があります。
四両あります。
気仙沼で切り離される車両と、盛まで行く車両です。間違えると乗り換えなくてはなりません。
結構人が並んでいます。
学生さんたちもいますし、会社員さんもいます。

座れますかね?


車体の横には、「ドラゴンレール 大船渡線」と書かれています。
かわいいドラゴンのマスコットも一緒に。


車両の扉が開きます。
どうぞ、前の方に続いてお進み下さい。


続く。